子どもに伝えたい川文化

子どもたちにこそ伝えたい、「川で遊ぶ」という体験

私たち「上長瀬やな 和亭」は、根尾川のすぐ横で、鮎料理とともに”川と生きる時間”をお届けしてきました。

川原に一歩足を踏み出すと、石の上を渡る冷たい水の感触、耳元で響くせせらぎ、陽にきらめく水面に、子どもたちの目は一気に輝きます。

とくに夏休みの午後、川辺での親子の会話は、とても印象的です。「この石、丸くてつるつるしてるよ」「どうしてかな?」そんな一言が、自然への興味の入り口になります。根尾川は山あいを流れる清流で、長い時間をかけて石が転がり、少しずつ角が取れて丸くなりました。

「川は、長い時間をかけて石も形も変えていくんだよ」とお話しすると、子どもたちは足元の石を見つめながら、「じゃあ、この石は何歳?」と、うれしそうに聞き返してくれます。

私たちは飲食店であると同時に、川と鮎の”案内役”でありたいと考えています。鮎の香りを楽しんでいただくのはもちろんですが、その一皿の向こう側にある川の流れや季節の移ろいまで、一緒に感じていただけたらうれしいです。

「やな」という言葉を初めて聞くお子さまも多いです。やなとは、川の中に竹や木で格子状の台を組み、下ってくる鮎などを受け止める、日本の伝統的な漁法のことです。川の流れをせき止めるのではなく、自然の力をそのまま利用して、魚が自ら滑り込んでくるのを待つ、昔ながらの”待ちの漁”です。

ある夏の日、小学生くらいの男の子が、お父さんの手を引きながらやなのそばにやって来ました。「魚、ほんとにここから落ちてくるの?」と不思議そうに聞くので、一緒に流れを眺めながら待っていると、小さな鮎が一匹、するりと木の隙間を滑ってきました。その瞬間の「うわぁ!」という声と、目を丸くした表情は、スタッフの私たちにとっても忘れられない光景です。そのあと、お子さまは焼き鮎を一口食べて、「さっきの子かな?」とぽつり。目の前の一匹が、単なる”料理”ではなく、”さっき川で見た生き物”として、心に結びついた瞬間でした。

川で遊ぶ体験は、安全面を整えれば、子どもたちにとって最高の学び場になります。冷たい水に足をつける、石を積んで小さな堰を作る、流木を拾って船に見立てる。教科書や画面の中では味わえない”手ざわりのある時間”が、根尾川には流れています。

私たちは、その時間を安心して楽しんでいただけるよう、川の様子を毎日見つめながら、お迎えしています。

根尾川という教科書のない”自然の学校”

根尾川は、岐阜県揖斐川町を流れる清流で、古くから鮎漁の名所として知られてきました。

上流にはダムもありながら、川幅が広く、流れの速い瀬や、ゆったりした淵など、さまざまな表情を見せてくれる川です。瀬とは水が速く流れて波立っている浅瀬の部分、淵とは水深が深く流れがゆるやかな場所のことです。この変化に富んだ川相は、鮎にとってすみやすい環境であり、私たち人間にとっても、自然を学ぶ絶好のフィールドになります。

根尾川の下流域は、石がしっかり入った川底と豊富な水量があり、鮎釣り場としても人気があります。川の状態が良い年には、天然遡上の鮎が豊かに上ってきて、夏の盛りには、川面に漁師さんや釣り人の姿が点々と見られます。天然遡上とは、海などから自然に川をさかのぼってくる魚のことを指し、人工的に放流された魚とは区別されます。この”自分の力で”川を上り下りする鮎たちが、私たちのやなの前も、毎年のように通り過ぎていきます。

根尾川の夏は、朝と昼、夕方でまったく表情が変わります。朝は、山の間から差し込む光が川面に反射し、冷たい空気の中に鳥の声が響きます。日中は子どもたちの笑い声や、水をはねる音が加わり、にぎやかな時間になります。夕方になると、日が山の向こうに沈み始め、少しずつ川風が涼しくなり、空の色と水の色がゆっくり変わっていきます。同じ一日でも、時間帯によってこれほど景色が変わる場所は、街中ではなかなか味わえないかもしれません。

ある日、常連のお客様が、お孫さんを連れてきてくださったことがありました。おじいちゃんは「昔はこのあたり、今よりもっと真っ暗でね、夏の夜にホタルがたくさん光っていたんだぞ」と話し始めました。お孫さんは「ホタル、見てみたい」と少し寂しそうに言いましたが、それでも夕暮れの川面に映る光を眺めながら、二人でしばらく黙って座っていました。食事が終わったあと、おじいちゃんは私たちに「ここへ来ると、懐かしい気持ちになる」と言ってくださり、私たちはこの川が世代を超えた思い出の場所であることを、改めて実感しました。

根尾川は、ただ「きれいな川」というだけではありません。長い時間をかけて、地域の人々の暮らしや文化、遊び方を育んできた、まさに”自然の学校”です。

川から学べることは、理科の知識だけではありません。「流れに逆らうと疲れる」「石につまずけば転ぶ」「冷たい水でも慣れてくる」──こうした体の感覚や、危険を察知する力、自然に対する敬意は、机の上ではなかなか身につかないものです。

私たちのお店は、そんな根尾川のすぐ横にあります。お食事の前後に川辺を歩いていただくだけでも、子どもたちにとっては十分な発見があります。水面をじっと見ていると、小さな魚の影がスッと走る瞬間があり、「あっ!」と声が上がります。川原の石を一つひっくり返してみると、小さな虫が隠れていたりして、そこからまた会話が生まれます。自然の中で、親子で同じものを見て、同じ時間を共有すること。そのきっかけとして、私たちの場所を選んでいただけたら、とてもうれしく思います。

鮎という魚から学ぶ”旬”と”いのち”の話

鮎は、日本の川を代表する夏の魚です。きれいな水と適度な流れ、そして川底の石に生えるコケを食べて育つことから、「清流の女王」と呼ばれることもあります。

鮎が好むコケは「石についた藻類」のことで、鮎はこれを口先でこそぎ取るようにして食べます。そのため、水がきれいで流れがきちんとある川ほど、鮎の香りや味がよくなると言われています。

根尾川の鮎は、香りの高さと身の締まりの良さで知られています。川底の石がほどよく洗われ、コケがきれいに生えてはがれる環境があることで、鮎たちはよく食べ、よく泳ぎ、すらりとした体つきになります。

鮎の専門的な表現で「追いが強い」「縄張りを持つ」という言い方がありますが、これは、元気な鮎ほど自分のナワバリを守ろうとする性質が強く、他の鮎を追いかけることを意味します。こうした性質もまた、川の状態が良い証拠のひとつです。

鮎の旬は、一般的には初夏から晩夏にかけてと言われます。解禁直後の若い鮎は「若鮎」と呼ばれ、身がやわらかく、苦味も少なめで、子どもでも食べやすい味わいです。夏が深まるにつれて、身に旨味が増し、香りも強くなっていきます。そして秋が近づくと「子持ち鮎」といって、お腹に卵を抱えた鮎が登場します。子持ち鮎は、プチプチとした卵の食感と、濃厚な味わいが特徴で、まさに季節のご褒美のような存在です。

私たち「上長瀬やな 和亭」では、やな漁から仕入れた鮎を使い、”本物の鮎料理”をお出ししてきました。やな漁とは、川の流れを利用し、下ってくる鮎を待ち受ける昔ながらの漁法で、魚に余計なストレスをかけずに獲ることができるのが大きな特徴です。

その鮎を、鮮魚の目利きとしての経験をもとに、一匹ずつ状態を見きわめてから調理します。同じ鮎でも、身の張りや脂の乗り具合は一匹ずつ違います。焼き台にのせる順番や火との距離を細かく調整しながら、その魚にとって一番おいしい状態を目指しています。

印象に残っているのは、小さなお子さまがお母さんと一緒に来られたときのことです。最初は「魚はちょっと苦手」と言っていたお子さまが、焼き上がった鮎の姿焼きを前にして、「頭から食べていいの?」と恐る恐る聞きました。「もちろん、まるごと食べられるよ」とお伝えし、まずは尻尾のほうから少しだけかじってもらいました。すると、「あれ?にがくない」「なんか、いい匂いがする」と言いながら、いつの間にか骨だけがきれいに残るまで、ぺろりと一匹食べきってしまったのです。帰り際に「またこのお魚食べたい」と言ってくれたその一言は、私たちにとって大きな励みになりました。

鮎という魚を通して、子どもたちは”旬”や”いのち”についても自然と学んでいきます。「どうして夏にしか食べられないの?」「卵をもった鮎はどこへ行くの?」そんな素朴な疑問から、季節の巡りや命のサイクルの話へとつなげることができます。私たちは、料理をお出しするときに、できるかぎりわかりやすい言葉で、鮎の一生や川との関わりをお話しするよう心がけています。

「やな」と和亭が守りつないできた川文化

「上長瀬やな 和亭」は、揖斐川町・根尾川沿いで、やな漁と鮎料理を中心に歩んできたお店です。

谷汲大橋を渡ってすぐ、細い道を進んだ先に広がる根尾川のほとりに、私たちのやなとお食事処があります。お客様からは「本当に川のすぐそばなんですね」と驚かれることも多く、その距離の近さこそが、私たちの誇りでもあります。

やな漁の歴史は古く、日本では1200年以上前から行われてきたと言われています。川の中に竹や木で格子状の台を組み、川幅いっぱいにしつらえたやなの上に、流れに乗って下ってきた鮎が自然と乗り上げてくる仕組みです。川の力を借りながらも、その年の水量や流れの癖を読み、微妙に角度や高さを調整する必要がある、職人の知恵と経験が詰まった漁法です。

私たちのやなも、毎年、川の様子を見きわめながら組み直し、根尾川の流れに合わせて”今年のやな”をつくり上げてきました。

お店として大切にしてきたのは、「川の恵みを、そのままの姿でお届けする」ということです。鮎はもちろん、川の風や水音、光の揺らぎも一緒に味わっていただきたい。そのため、料理だけでなく、座席からの眺めや、川に降りていける動線にもこだわってきました。

「鮎料理を食べる」という体験が、「川と過ごした一日」として記憶に残ってほしい。そんな想いで、毎年の営業を続けてきました。

実際に、会社の同僚同士で来られたお客様が、「子どものころ家族で来た場所なんです」と教えてくださったことがあります。当時はご両親に連れられて訪れたそうですが、大人になって自分が幹事となり、仲間を連れて再び根尾川を訪れてくれたのです。「川の音と、鮎を焼く香りをかぐと、一気にあの頃を思い出します」と笑って話される姿に、川文化が”思い出”として引き継がれていることを感じました。こうして、親から子へ、子から孫へと、何気ない一日が受け継がれていくことこそ、私たちが守りたい”川の文化”そのものなのかもしれません。

やなと鮎料理は、決して特別な人だけの楽しみではありません。むしろ、川で遊んだことがないお子さまや、自然に触れる機会が少ないご家族にこそ、一度体験していただきたいと思っています。川の流れを眺めながら、焼きたての鮎をほおばり、「おいしいね」と笑い合う時間。そのシンプルなひとときが、何年たっても思い出せる、大切な記憶になります。私たちは、その記憶の背景に、静かに根尾川の姿があり続けるよう願っています。

お子さま連れでも安心して楽しめるために

川遊びと聞くと、「子どもを連れて行っても大丈夫かな」「危なくないかな」と、不安に思われる親御さんも多いはずです。私たちも同じ親の立場として、その気持ちはよくわかります。だからこそ、「上長瀬やな 和亭」では、お子さま連れのご家族が安心して過ごせる環境づくりを大切にしてきました。

まず、川の様子は毎日スタッフが目で見て確認し、水量や流れの変化に敏感になるよう心がけています。雨のあとには水位が上がり、流れも速くなります。そうしたときには、川辺に出る範囲を制限したり、小さなお子さまには必ず大人の方と一緒にいていただくよう、声かけを行っています。また、足元が不安定な場所や滑りやすい石の位置などは、スタッフの間で情報を共有し、注意が必要なときには事前にお伝えするようにしています。

お座敷席を中心とした店内は、靴を脱いでくつろいでいただけるスタイルで、小さなお子さまにも過ごしやすい空間です。川遊びで少し冷えた体を、あたたかいお茶と焼きたての鮎で温めてもらいながら、ほっと一息ついていただけます。川辺と店内を行き来しながら、一日を通してゆっくり滞在されるご家族も多くいらっしゃいました。

「子どもが飽きずに過ごせるのがいいですね」と言っていただけるのは、私たちにとって何よりの言葉です。

あるご家族は、最初とても緊張した面持ちで来店されました。お子さまが小学低学年で、「川は初めてなんです」とお母さまが心配そうに話されていました。そこで、まずは浅い場所で足だけ水につけてみることから始め、スタッフも一緒に様子を見守りました。はじめは「冷たい!」と叫んでいたお子さまも、しばらくすると石を拾ったり、小さな魚を追いかけてみたりと、だんだん笑顔が増えていきました。食事のあと、「また来年も連れてきたいです」と言っていただけたとき、川の魅力と安心感の両方を感じてもらえたのだと、胸があたたかくなりました。

安全というのは、ルールを押しつけるだけでは守れないものだと考えています。「ここは滑りやすいから気をつけようね」「流れが速いところには近づかないようにしよう」──そんな声かけを、親御さんと一緒にできれば、子どもたちは自分で危険を判断する力を少しずつ身につけていきます。私たちは、川辺での過ごし方を丁寧にお伝えしながら、ご家族と一緒に”安全の感覚”を育てていきたいと思っています。

そして何より大切なのは、「楽しかった」という記憶が、安全な環境の中で生まれることです。安心して遊べるからこそ、川の美しさや鮎のおいしさに素直に向き合うことができます。そのための準備と見守りを、私たちはこれからも続けていきます。

川と鮎とともにある時間を、次の世代へ

根尾川のほとりで長く営業を続けてきた「上長瀬やな 和亭」は、やな漁の鮎とともに、お客様の時間を見守ってきました。川の恵みと、鮮魚のプロとしての目利き、その両方を活かしたおもてなしが、私たちの誇りです。

一匹の鮎を焼き上げる火加減から、川を眺める席の配置、子どもたちが安全に遊べる範囲まで、すべては「ここで過ごす一日が、いい思い出になりますように」という願いから生まれたものです。

鮎料理は、単なる”地方の名物料理”ではありません。川の状態、季節の移ろい、漁師さんの技、料理人の手仕事、そのすべてが一皿に重なった”川文化の結晶”だと思っています。

だからこそ、子どもたちには、「おいしい」だけでなく、「どうしてこの時期に食べるのか」「どこからやってきたのか」という背景にも、少しだけ目を向けてもらえたらうれしいです。自然の恵みをいただくことへの感謝や敬意は、きっとこれからの時代を生きる子どもたちにとって、大切な感性になるはずです。

これまで、夏になると根尾川の川岸には、親子連れやグループのお客様の笑い声が響き渡っていました。鮎の群れがやなに滑り込む様子を見守る大人たち、その隣で、水しぶきを上げてはしゃぐ子どもたち。夕暮れには、焼き鮎の香りが川風にのって漂い、テーブルの上には「おいしい」の声が広がります。そんな風景の一つひとつが、私たちの宝物です。

川は、同じ場所に見えて、同じ姿で流れ続けているわけではありません。一年ごとに石の配置も、川底の形も、少しずつ変わっていきます。それでも、根尾川には「清流」と呼ぶにふさわしい水と、鮎が育つ環境が、今も息づいています。

私たちは、この川とともに歩んできたお店として、その魅力を次の世代にも伝えていきたいと願っています。

もし、まだお子さまと一緒に「川で過ごす一日」を体験されたことがなければ、ぜひ根尾川へ足を運んでみてください。冷たい水に足をつけて、空を見上げて、川の音を聞きながら、焼きたての鮎を一口。その瞬間、お子さまの心には、「川って気持ちいい」「また来たい」という新しい記憶が刻まれるはずです。私たち「上長瀬やな 和亭」は、その最初の一歩をそっとお手伝いできれば、とても幸せに思います。



🍃**上長瀬やな 和亭(なごみてい)**🍃

2025年度の営業は終了いたしました
今年もたくさんの方にお越しいただき、誠にありがとうございました。
2026年度の営業は7月1日からとなります。来年もまたよろしくお願い致します😄


岐阜・根尾川の自然に囲まれた「やな」で、旬の鮎を炭火で。
魚屋一筋30年の目利きが選ぶ、極上の鮎料理をぜひご堪能ください。

📍岐阜県揖斐郡揖斐川町谷汲長瀬720
📞 ご予約・お問い合わせ:0585-55-2630
🕒 営業時間: 11:00~ 17:00 ラストオーダー16:30
🚗 大型駐車場完備 / PayPay対応

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